【掲載:07年2月】
 「スターはいない。ヒーローがいる」――。1996年度第70回関東大学サッカーリーグのキャッチコピーは、大学サッカーの一面をよく表している。Jリーグ開幕以来、いわゆる“スター選手”は大学を経ずに直接プロに行くようになった。現在の大学サッカー界に話題性のある選手、実力のある選手はいても、“華”を感じさせる選手は少ない。そんなか数少ないスター選手として、“華”のあるプレーで大学サッカーを盛り上げた選手がいる。それが今季から新潟に移籍した深井正樹だ。
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 1999年の春のことだ。久しぶりに会った駒澤大のコーチから「今年はすごく楽しみな新人が入ったよ」と声をかけらた。試合会場ではどこからともなく「今年の駒大の新人はちょっとイイらしい」という、大学関係者の噂話も耳に入ってくる。その噂の主こそが深井だった。いざ新人戦で本人をのプレーを見れば「なるほど」と納得。目が覚めるような、切れのいいドリブル。ボールを持った瞬間からあれよあれよという間に加速するスピード。これらを武器にして、161センチの深井が、自分よりも20センチ近くは大きいだろうDFをおもしろいように抜いていく。深井がボールを持っただけで、ピッチ上のプレーヤーのみならず、スタンド全体が期待と危機感をはらんで動くのがわかった。久々に大学サッカー界に現れた、プレーで“魅せる”選手――。そう実感した一瞬だった。

 秋のリーグ戦が始まっても、深井の輝きはいや増すばかり。小柄な身体には不似合いなほどの闘志を見せる深井は、累積警告で新人賞やベストイレブンの受賞資格こそ逃したが、「駒大に深井ありき」の印象は大学サッカー界に広く浸透した。翌年の春には大学選抜入りを果たし、11番を背負って韓国大学選抜と対戦。スタメン出場のうえ2ゴールをあげて日本の勝利に大きく貢献している。

 逆に、対戦チームにとっては「ストップ・ザ・深井」がわかりやすいモットーとなった。2年生になった深井は各チームの徹底マークに苦しむ。大学に入ってから初めてぶち当たった壁。その迷いは、深井のプレーにも現れた。相手の懐に入り込んでDFラインをかく乱するようなプレーを得意とする深井だが、ミドルシュートによる攻撃も見せ始めたのもこの頃だ。「今までと同じままではいられない」。当時の深井はそう語っている。

 この変化は深井自身のプレーの幅を広げることには役立ったが、一方で深井の持つ“華”の部分を半減させた。しかし北京ユニバでの優勝など、国際大会で経験と自信をつけた深井は、再び自分のプレーの原点であるドリブルを極めるという結論にたどりついた。自らの才能だけに頼るのではなく、筋力を鍛え、さらにスピードをアップ。一回りレベルアップした深井のドリブルは、今度は幾多のマークにあっても止められることはなかった。深井がボールを持つだけで、スタンドは沸く。そんな雰囲気が会場に戻ってきた最終学年の年、深井擁する駒大はついに念願のリーグ初優勝を達成。深井は巻(千葉→ロシア/アムカル・ペルミ)とともに得点王に輝き、3年連続のベストイレブン選出、4年連続リーグ出場、MVP、ベストヒーロー賞と各賞を総なめにした。この年の関東リーグは、まさに深井の、深井による、深井のための大会だったといえるだろう。

 大学卒業後は鹿島に進んだ深井だが、残念ながらプロとして十分な活躍をしていたとは言い難い。今年、出場機会を求めて新潟に期限付き移籍をしたのもその表れだろう。だが、深井は鹿島サポーターに愛され、どんなときでも熱烈な声援を受けてプレーしていた。それは、深井がボールを持っただけで「何かが起きる」と思わせるような感覚、スタンドを覆うワクワク感を、鹿島サポーターが大切にしていたからではないだろうか。それこそが、まさに“スター選手”の絶対条件なのだ。



-After Story-

 出場機会を求めて新潟へと期限付き移籍をした深井だったが、怪我などもあり結果を出せないまま翌'08年には名古屋に移籍。だがここでも結果を残せず、シーズン半ばに千葉へと三たびの移籍をすることになる。深井は大学時代とは真逆の、順風満帆とはほど遠いプロ生活を送ることになった。

 だが、彼にとって僥倖だったのは千葉には駒大時代の“相棒”である巻誠一郎がいたということだ。阿吽の呼吸でプレーできる巻とコンビを組むことで、深井は本来の持ち味である切れ味鋭い突破を復活させてゴールを量産。'09年には千葉への完全移籍をはたした。

 残念ながら、プロになって初めてレギュラーに定着し、シーズン最多出場をはたした昨年は千葉がJ2に降格するという事態にも立ち会うことになった。だが、そんな逆境にあっても深井自身の輝きが廃れることない。'08年シーズンの終盤、千葉のアウェーの試合に訪れたときのことである。ホームにあたる千葉の対戦チームを取材しているライターが後半に入ると突然、「深井、出てこないかなあ……」とつぶやき始めたのだ。この日、深井はベンチスタートだったのだが、「せっかく千葉と対戦したのなら、深井のプレーが見たい」とのこと。はたして後半途中に深井が投入されると「参ったな。やばいね」と言いながらも「楽しみにしてたから、よかった」と顔をほころばせた。

 決して、相手チームが圧勝したわけではない。結果的に見ればシーソーゲームだった。それでも、「見たい」と思わせる華が今も深井にはあるらしい。
(文・写真/飯嶋玲子)


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